結城紬・研修レポート ~前編~【群馬県前橋市|小川屋写真館】

スタッフトーク

こんにちは!前橋市中央通りにありますスタジオ桑町 小川屋写真館の前野です。
ここ最近、風が強いせいか喉がイガイガしております。せっかくマスク着用が緩和されたのに、結局マスクをしないといけないのか…とちょっぴり残念に思っています。夏にはマスク無しで楽しくお出掛けができるといいですね!
さて、お出かけと言えば、先週の4月12日はお店をお休みさせていただき、研修のために社員一同で茨城県結城(ゆうき)市へ行ってきました! 着物が好きな方であれば、『結城』と聞けばすぐにピンとくるかと思います。
そうです、日本が誇る絹織物の代表格、『結城紬』。

本日、4月21日からスタートします『キモノたのしみ展』に向けて、結城紬について学んでまいりました! 今回は、そんな結城紬研修のレポートとなります。長くなってしまったので、今回も2回に分かれてのご紹介となります。今回は前半編!

キモノたのしみ展の詳細についてはこちら↓↓

4/21(金)〜25(火)和を楽しむ「キモノたのしみ展」開催します!

『キモノたのしみ展』目玉の一つ・結城紬

そもそも、今回研修を行ったのは、何故なのか。小川屋の催事に良くご来場くださるお客様はご存知かと思いますが、当店では各産地の紬を取り扱っていますし、産地救済として販売に非常に力を入れております。もちろん、結城紬も例外ではありません。
しかし、『キモノたのしみ展』は今までと一味違います!
今回、結城紬をご用意してくださる問屋さんは、『株式会社 細尾』様。 元々、老舗の京都西陣織の機屋さんである細尾様ですが、各産地の職人たちのものづくりのこころを人々に届けることを目指して、1923年から卸売業を開始。
その想いは現在、日本各地の伝統的な染織文化の研究や保存、発信など幅広い活動へと繋がっています。その活動は国内にとどまらず、海外に向けてテキスタイルの提案、ハイブランドとのコラボレーションなどを次々と発表し、今年3月には東京ミッドタウン八重洲の1Fに、『HOSOO TOKYO』をオープンされました!

■高い技術と芸術性に新たな可能性を見い出すこと
■伝統文化を紹介し、きもの文化を未来につなげること
細尾様が掲げるこの信念は、前橋小川屋が目指す道とも繋がります。
そこで、伝統織物の代表として、ユネスコ無形文化遺産にも登録された唯一の絹織物、『結城紬』を今回ピックアップしました。
皆さんにも産業の歴史や文化について触れながら、より深くきものを知り、楽しんでいただけるよう、社員一同しっかりと学んでまいりました!

結城紬とは

紬とは、真綿から紡いだ糸を先染し、織り上げた絹織物のことを言います。養蚕が盛んな地域で、生糸を生産する過程で出たいわゆる出殻繭や屑繭といった生糸にできなかった繭などを再利用し、庶民の普段着として作られたのが始まりではないかと言われています。
一般的に紬は非常に丈夫で暖かいとされ、野良着として古くから着用されてきました。そうした各地域で生産された紬は、その地域の名前が付けられ、それぞれの特色があります。

結城紬の基礎知識

結城紬は、大島紬と並ぶ二大紬の一つです。茨城県結城市、隣接する栃木県小山市などで生産されています。その歴史は日本最古と言われ、一番の特徴は、生産工程の全てが手作業であることです。この特徴は他の紬の産地にはない特徴となります。

ここが凄い!本場結城紬の三大ポイント

結城紬は1956年(昭和31年)に国の重要無形文化財に、2010年(平成22年)にユネスコ無形文化遺産に登録されました。結城紬の製作工程である、【糸つむぎ】【絣くくり】【地機織り】といったそれぞれの技法が結城紬の『凄いポイント』と言えます。
他の紬の産地では、生産性を向上させるために、糸紡ぎや機織りの技術を進歩させ、効率化を図ってきました。
一方で、結城紬は古くからの技法を変えず、かたくなに手仕事にこだわり、伝統を守り続けてきたのです。
特に、結城紬の『糸』は、真綿から手で紡ぐことにより生まれる独特の風合いが、結城紬たらしめているといっても過言ではありません。他の紬にはない、『らしさ』なのです。

結城紬ができるまで~見学~

さて、そんな基礎知識を持って、いざ見学へ!!
(今回この研修にご協力くださったのは、奥順株式会社 様、須藤織物 様です。)
前橋小川屋から約2時間。結城市にはスムーズに着いたものの、そこからなぜか道に迷って道なき道を走る、というハプニングがありながら(笑)、到着しましたのは、須藤織物 様。こちらで早速、結城紬の伝統技法を間近で見学しました。

1 糸つむぎ

糸をつむぐ、というとイメージするのが糸車だったりしますが、結城紬ではそうした道具は使いません。使うのは、『ツクシ』と『オボケ』という道具2つだけ。とってもシンプルです!
繭玉をお湯で煮て広げたものが真綿となり、この真綿を『ツクシ』に絡ませて、指先で一端を引き出します。この時、指先に唾液などを付け、繊維を束にしてまとめていきます。そうしてまとめた糸を『ツクシ』の前に置いた『オボケ』の中へと入れていく…という作業が糸つむぎです。

一般的な糸は、繊維を束にする際に、撚り(何千と回転させてねじる)をかけていきますが、手つむぎでは軽くひねる程度で、撚りはかけません。撚りをかけると、繊維の中に含まれた空気が出てしまうそうですが、手つむぎ糸の場合は真綿そのまま空気を含み、層となっているので、『軽くて・暖かい』という真綿の質感をそのまま実現できるのだそうです。
手つむぎ糸の場合、問題となるのが “節”(糸の太い部分)。結城紬では、この節が特徴と言われることもあるようですが、目指しているのは全体が均一で真っ直ぐな糸なのだそうです。撚りをかけずつむぐには非常に高い技術が必要となります。

また、『オボケ』一杯の糸を『1ボッチ』と言い、この1ボッチ作るのに早くて1~2週間。1反分を作るのに7ボッチ必要なのだそうで、(もしも一人ですべての糸を作るとしたら)約2~3か月かかるそうです! 他の産地に比べて、この「糸づくり」が大きなハードルになっています。

2 絣(かすり)くくり

次に絣くくりの見学です!絣くくりは、染める前の糸を木綿糸でくくることで、糸を染め上げた時にくくった部分だけ染まらずに残るようにしています。この作業により、結城紬の代表柄である亀甲も、この染め分けられた糸を組み合わせて織り上げることで、作られています。着尺一反の横幅に入る亀甲の数により、80亀甲・100亀甲などと呼ばれます。

特殊方眼紙に設計されたデザインをもとに、糸に墨付けを行い、くくる位置をマーキングします。総柄のきものの場合、墨付けだけで3日~4日。経糸・緯糸それぞれにこの作業を行い、この絣くくりでも3か月ほどかかるそうです。

100亀甲の総柄だと、5万~10万カ所くくるそうですが、染め上げた後はこのくくった糸をすべて外す必要があります。とんでもなく果てしない作業ですね…。

↑亀甲をどうやって織っていくのかをとても丁寧にご説明くださいました。

3 製織

さて、結城紬の全70工程の最後が、製織になります。織機は「地機」と呼ばれ、日本最古の織機で、絹織物で地機を使っているのは結城だけになります。
織り娘さんの腰に経糸をくくりつけ、引っ張ったり、緩めたりしながら織っていきます。 また、経糸360本のうち下半分が右足と繋がっており、右足を動かすことで下糸が上下に動きます。

緯糸を通す道具は、杼(ひ)と言います。一般的な杼は小さいものなのですが、結城紬で使われる杼は刀杼(とうひ)と言う非常に大きな物になります。

この刀杼で緯糸を通しながらしっかりと打ち込み、さらに筬(おさ)でも打ち込みます。こうすることで、緯糸の密度を上げ、布の強度を上げるためです。(※結城紬は1寸間に打ち込む緯糸の数が規定で決まっています。少ない場合は打ち込み不足、ということで不合格になってしまうそうです。) また、杼を引っ張ったり緩めたりしながら打ち込んでいるため、手紡ぎ糸に優しい織り方なのだそうです。

4 湯通し

結城紬は、織り上がったら終わり、という事ではありません。例えば小川屋で結城紬をご購入いただくと、仕立てに出す前に『湯通し』という工程があります。
反物の表面に小麦粉から作られたでんぷん糊が付いているため、その糊を落とし、風合いを良くする目的があります。
湯通しの方法は、でんぷん質を落とす酵素が入った40℃くらいの温かいお湯に反物を入れて、手で送るようにしながら糊を落としていきます。


この作業が手作業なのは、糊の加減がちょうどいい塩梅になるように調整するのに、指の感覚で決めているからです。機械にはできない繊細な感覚は、まさに職人技、と言ったところですね。
そうして、ちょうどいい硬さになったところで、すすぎ・脱水を行い、乾燥を行います。
単衣や袷など目的と種類によって落とす糊の量は変わって来るそうです。ちなみに、夏結城と縮は硬めがおススメとのこと。乾燥は通常、午前中に天日干しをするそうです。
人工的に乾燥させると、むらが出てしまうため、反物をしっかり広げて一様に日光に当てるのが一番良い方法なのだそうです。当然雨の日に天日干しはできませんので、梅雨時などのお天気が安定しない時期は「急ぎ」などに対応しづらいのが難点です。

本場結城紬は乾燥するとぴんと張ります。これは結城紬が伸縮性があり、軽いためだそうで、モノによっては逆に反り上がるそうです。乾いたばかりの反物は、最後にプレス用の機械に通します。プレス、と言ってもしっかりつぶしてしまうとふんわりとした風合いがなくなってしまうため、つぶさない工夫がされています。
以前は機械ではなく、この作業も手作業だったそうで、石の上に反物を置き、杵で叩くことで繊維が馴染み、着心地が良くなるそうです。もし結城紬をご購入されたり、お手入れをされる際は、産地へお願いするのがおすすめです。こうした一つ一つのこだわりと職人技により、結城紬は皆さんの元へ最高の状態で届きます。

いかがでしたか? 結城紬研修前半だけでもかなりのボリューム(文字量)になってしまいました…。とてつもない時間と労力をかけて1着を作り上げている、結城紬。これだけの工程を経ていることを考えると、高価になるのも頷けますね。

最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます!

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