こんにちは!前橋市中央通りにありますスタジオ桑町 小川屋写真館の前野です。
前回のブログからかなりお久しぶりになってしまいました…。
書きたいことはいっぱいあるのに、自分の文章力のなさのせいでなかなか進まず、気付けば数か月が経とうとしております。反省…。
そんな前野の遅筆問題は今後AIさんのお力を借りることとして 笑、今回はタイトルにもあります通り、3月に行われた『桑の苗木植樹プロジェクト』に参加してきました!
毎年社長がひっそりと参加しているのですが、今回「ぜひ連れてってください!」とお願いをしまして、私・前野と新人の青山の3人で植樹を行ってきましたので、その様子やこのプロジェクトについてご紹介したいと思います。
国産シルクを守るために、私たちができること
桑の苗木 植樹プロジェクトとは?
まずは、この桑の苗木プロジェクトの目的についてご紹介します。
現在、日本国内の養蚕農家さんがどれくらいいらっしゃるか、ご存知でしょうか?
農林水産省の資料によると、平成元年に全国で57,230戸だった養蚕農家数は、令和4年にはなんと163戸! 30年弱で平成元年の約0.2%にまで激減してしまいました。
農家さんが減ったということは、もちろん生産量も激減。平成元年に26,819tだった生産量は、令和4年で51tとなっています。
ちなみに、養蚕業のピークは昭和4年頃。当時は221万戸の養蚕農家さんがいて、40万トンの生産量がありました。
そうした中、国産の生糸のシェアは需要の約1%。ほとんどは輸入品に頼っているのが現状です。
『繭と生糸は日本一』と上毛カルタで覚えている群馬県民も多いことでしょう。
確かにその通りで、国内で農家数・繭生産量のトップなのが、前橋小川屋がある群馬県です。
しかし、その1%の国産生糸の中のさらに3割程度が群馬県産、と考えますと「かなり少ない」となんとなく感じていただけるのではないでしょうか。
時代の流れと共に、養蚕業には『低収入』『高齢化』『後継者不足』などの問題が浮上し、衰退の一途を辿ってきてしまいました。 毎年15%程度の割合で養蚕農家さんは減少していると言われ、このままでは国産シルクが絶滅してしまうかもしれない…。
「そんな危機的状況の養蚕農家さんを少しでも応援したい!」
という思いから、この『桑の苗木 植樹プロジェクト』は日本蚕糸絹業開発協同組合様が主催となり、発足されました。
毎年、全国各地の呉服店・小売店様が参加し、今年で13回目となります。
前橋小川屋は第一回目から参加をしております。
植樹レポート
植樹は前橋市内にある畑で行います!
なんと前野の実家のすぐ近くでして、とても驚きました。笑
畑を管理してくださるのは、養蚕農家の糸井様。
平成30年に黄綬褒章を受章されていらっしゃいます。
まずは、糸井様から苗の植え付けのレクチャーを受けます。
苗がしっかりと収まるように深い穴を掘り、苗を入れて、土を少し被せて、肥料をまき、掘った土を戻して踏み固めます。
文字にするととっても簡単ですが、苗がすっぽりと入る穴を掘るのはなかなかに大変です!
青山がチャレンジします。
どうにか植え付けできました!
青山が1本の植え付けに手間取っている横で、社長は手早く数本の苗を植え付けておりました。笑
12年間毎年植樹を行っているのは伊達じゃない。
前日に腰を痛めたそうですが、そんな様子はみじんも感じさせない仕事ぶりです。
もちろん、私も植え付けしました!
3人揃って真剣に植え付けを行っております。
最後はみんなで記念写真も
一本植えるのに大体2~3分ほどかかりました。
私たちが植えた苗は十数本でしたが、養蚕を行うためには実際もっと沢山の苗を植え付けなければなりません。
一つ一つ、穴を掘り、根っこが折れないように丁寧に植えて、優しく土をかぶせる。
単純な作業ではありますが、これを何百本・何千本と行うのはなかなかに骨の折れる作業だと感じました。
機械に頼りたいところですが、苗の一つ一つが均一な形ではありませんので、自動化するのも難しそうです。
そこに対応できる機械であれば、きっと高額なのだろうなとも思います。
素人の考えではありますが、農業の難しさを感じた瞬間でした。
帰りがけに、過去に植樹した畑も見てきました。
植えた時は、細く頼りない一本の苗ですが、立派な桑の木に成長していました!
葉がついていたりするのかと思いましたが、冬場は葉どころか枝も切り落とされ、丸裸の切株状態になっています。
子供の頃に近所では見慣れた光景でしたが、「あれは桑の木だったのか…!」と今更ながら知ることになりました。
よくよく考えれば、小学校の同級生の家でも養蚕を行っていて、そこのおかいこさんを一匹譲ってもらって、家でこっそり飼っていたこともあります。笑
飼っていた蚕は立派に成虫になりました。
案外、私が知らなかっただけで地元は元々、養蚕が盛んな地域だったのかもしれませんね。
桑の木と養蚕業について
今回の植樹で、「養蚕農家さんが桑の木を育てていたんだ!」ということも新たな発見でした。実は、桑の木を育てているのは、桑の木専業の農家さんなのだと勝手に思っていたのです。
シルクに携わる仕事をしているのに、そんな曖昧な認識ではいけない!
…ということで、養蚕業について正しく理解するべく、自分なりに調べてみたところ、驚きの事実が判明しました!
蚕を育てること=桑の木を育てること
絹の元となるのは、蚕(カイコ)が作る繭。その蚕が食べるのが、今回植樹を行った桑の木の葉です。
蚕は繭を作るまでに、生まれてから4回の脱皮を繰り返して大きくなっていきます。
脱皮を繰り返すたびに、1齢・2齢と数えていき、3齢までは人工飼料を食べて育っています。
生まれたばかりの蚕は病気にかかりやすいために、衛生管理をされた共同飼育所で育てられ、3齢になった状態で養蚕農家さんの元へやってきます。
4齢から桑の葉を食べさせるのですが、この育ち盛りの蚕はまさに、『腹ペコあおむし』そのもの!
蚕一頭が一生のうち食べる桑の葉の総量は約100g!(乾物で約20g)
おもに5齢で88%、4齢で9%、1~3齢で3%を食べるそうです。
業界では1箱という単位とされる、約30,000頭の蚕を飼育した場合、3週間で約一反(テニスコート約4面分)の桑園を食べ尽くします。この量は驚きです!
(※ちなみに、着物1枚を作るのに蚕は約2,700頭必要です)
孵化から25日ほどで繭を作るまでに成長しますが、その間に体重は約1万倍へと急成長するのですから、沢山桑の葉を食べるのも納得ですね。
そんな食べ盛りの蚕をしっかり育てるために、新鮮で安全な桑の葉が沢山必要になります。
多い時には1日に5回も桑の葉を摘み、与えるそうです。 だからこそ、養蚕農家さんでは桑の木を育てることが非常に重要なのです。
桑の木
養蚕農家さんでは桑の苗木を一本一本植えて育てていきますが、この苗木自体を育成されているのは、全国でも群馬県富岡市にある大竹栽桑園様1件のみ!
桑の木の成長は早く、苗木は植樹から1年ほどかけて、餌として使用できるようになります。
しかし、桑の木は一度植えればずーっと葉が取れる、ということではありません。
数年から数十年で葉がつかなくなってしまうそうで、定期的に植え替えが必要となります。
また、蚕は農薬等に非常に敏感で、農薬を含む桑の葉を食べると死んでしまうそうです。
養蚕農家さんにとって、良い桑の木を育てることが、養蚕においての絶対条件であり、基礎・基盤となる、ということなんですね!!
どうなる!? 国産シルクの未来
養蚕農家さんを助けて、国産シルクを守る ― そうした目的があるこの『桑の苗木 植樹プロジェクト』。
「苗木を植えたから、おしまい。」ではもちろんありません!
前橋小川屋では、この植樹プロジェクトの桑の葉を食べた蚕から生糸を作り、その生糸を使った『メイド・イン・前橋』の白生地を誕生させました!
なぜそんなことをしているのか?というと、
国産シルクを守るには、国産シルクの需要も作っていかねばならないからです。
せっかく生産しても、消費されなかったら意味がありません。
実際に、着物の世界でも国産シルクを使っているのは、ほんの一握り。
多くの場合は産地まで分からないのが現状なのだそうです。
国産シルクは外国産のシルクに比べて価格が高い。
そのため需要が減ってしまい、生産量が落ちる、養蚕農家さんが減る、そしてさらに国産シルクの価格が上がる…
そんな悪循環に陥っているのが現状なのです。
改めて、国産シルクの価値を見直し、需要を増やすこと。
それが小売業である小川屋の役割であり、完全前橋産の白生地はそのためのアイディアの一つです。
「生産者の顔が見える野菜が安心・安全と感じるなら、肌に纏う着物も同じじゃないか?」
以前言われた社長の言葉にはっとしました。
食べ物には気を使っても、衣類に対してそこまで考えたことはありませんでした。
よくよく考えてみれば、無農薬の桑の葉だけを食べ、大切に育てられた蚕から作られた生糸。その生糸の生産者を私たちは知っています。
そして、その生糸をどこで織り、誰が染めているのか、それがきちんと辿れます。
それが前橋産白生地で作られた、小川屋オリジナルの着物です。
つまり、「生産者の顔が見える着物」ですね!
安心安全はもちろんのこと、前橋産の白生地を買うことは、巡り巡って養蚕農家さんを助けることにも繋がります。
皆が『Happy』になる素敵な企画です。
こちらの白生地では、オーダーで色無地やその他オリジナル着物を作ることもできます。
振袖のお客様であれば、胴裏などにこちらの白生地を活用することもできるそうですよ!
詳しくは前橋小川屋までお問い合わせください。
小川屋では現在そんな取り組みを行っていますが、他分野でも様々な検討がなされています。
■ 高品質なシルクの生産: 国内産の繭・生糸の希少性を活かし、高品質化やブランド化を行っています。
■ 新たな需要の創出: 遺伝子組み換え技術などにより、様々な機能を持つシルクが開発されています。 ファッションだけでなく、化粧品や医療品など、様々な分野でのシルクの利用を促進しています。
■若い世代へのアピール: 光る繭の生産などをはじめ、新たな活用方法・販路を広げるとともに養蚕業の魅力を若い世代に伝え、後継者育成に力を入れています。
こうした取り組みを通して、国産シルクの未来が少しずつ明るくなって欲しいですね!
いかがでしたか?
桑の苗木植樹プロジェクトは、国産シルクの未来を守るための重要な取り組みの一つです。
このプロジェクトを通して、私は養蚕業の現状について学ぶことができました。
このブログを通じて、
日本の伝統産業である養蚕業の現状
国産シルクの価値
小川屋が国産シルクを守るために取り組んでいること
について、少しでも知っていただければ幸いです。
お客様にとって特別な日を最高の形で残すお手伝いを、小川屋スタッフ一同、誠心誠意努めさせて頂きます。